現象数理学:冬の学校「数学の眼で探る生命の世界」

生命現象は,遺伝子,タンパク質,細胞,器官など,さまざまなスケールで展開される,きわめて高度に組織化された営みです.複雑な生命現象の本質を解き明かすためには,まず,単純化された個々の要素の仕組みを詳しく調べることが肝要ですが,同時に,それらの要素が巨大な系の中でどのような相互作用をしているかについて理解を深める必要があります.
数理モデルを用いた解析手法は,このような複雑な系の本質を解き明かす上で有効な手段であり,扱う対象が複雑化するにつれて,数理的アプローチが役立つ局面は,今後ますます増えてくるものと思われます.
この冬の学校では,「数学の眼で探る生命の世界」と題して,我々の体内や他の生物の中で起きている諸々の現象を,確率論や力学,微分方程式などの「数理のめがね」を通して詳しく観ていくことにします.
なお,1月21日(金)に,東京大学GCOE主催,明治大学GCOE共催のミニワークショップ「生命現象の数理:ミクロの世界の仕組み」を開催いたします.こちらの情報につきましては, 東京大学GCOEプログラム「数学新展開の研究教育拠点」 をご覧下さい(今後公開予定).

冬の学校「数学の眼で探る生命の世界」ポスター

日程・場所

プログラム

1月18日(火)
  • 10:00~12:00 森洋一朗(ミネソタ大学)「電気生理学の数理」
  • 14:00~17:20 中村直俊(東京大学)
    「細胞生物学と力学系:Waddington's epigenetic landscape 再訪」

1月19日(水)
  • 10:00~12:00 Eamonn Gaffney(オックスフォード大学)
    「Flagellated Swimming: Theory and Observation」
  • 14:00~15:40 Eamonn Gaffney(オックスフォード大学)
    「Flagellated Swimming: Theory and Observation」
  • 16:00~18:00 森下喜弘(九州大学)「発生生物学への数理的アプローチ」
1月20日(木)
  • 10:00~12:00 森下喜弘(九州大学)「発生生物学への数理的アプローチ」
  • 14:00~18:20 柴田達夫(理化学研究所)「細胞の情報処理」

予定されている講師の方々(敬省略)

  • 森洋一朗(ミネソタ大学)

    題目:「電気生理学の数理」
    要旨:細胞の電気活動は神経,心臓,筋肉の機能の根幹にあり,Hodgkin-Huxleyの仕事以来,今日も数理生理学における主要な研究分野です.本講演では電気生理学に関する基礎的な事柄(浸透圧,膜電位,イオンチャネル,興奮性)とそのモデル化について解説した後,心臓の電気生理学について解説する予定です.最後に最近の話題として,浸透圧と細胞の電気生理を統合するモデルについて解説します.
  • 中村直俊(東京大学)

    題目:「細胞生物学と力学系:Waddington's epigenetic landscape 再訪」
    要旨:細胞のとる状態の集合を力学系のアトラクターとみなす考え方は,少なくとも1940年代のC. H. Waddington に遡れる古いものですが,実験生物学者には一部を除いてあまり知られてきませんでした.しかし最近,アトラクターを実験的に可視化する方法が少しずつ開発され,癌細胞や神経細胞の振る舞い,幹細 胞の分化などの生命現象を理解するための枠組みとして改めて注目されつつあります.本講演ではこの考え方の数理的および実験的基盤について解説します.
  • Eamonn Gaffney(オックスフォード大学)

    題目:「Flagellated Swimming: Theory and Observation」
    要旨:The eukaryotic axoneme is a ubiquitous organelle found in cilia and flagella;these slender cellular appendages actuate the fluid surrounding a cell in numerous physiologically important settings, for example: sperm swimming and egg transport in reproduction, mucociliary clearance within the lung, fluid flow within the cerebrospinal fluid, symmetry breaking in early developmental biology and the virulence of numerous medically important pathogenic parasites. In addition, bacterial cell swimming is driven by the prokaryotic flagellar filament powered by a most remarkable nanoscale molecular torque motor. In this workshop we will explore the mechanics of these slender appendages in the context of cellular swimming, highlighting the counter-intuitive aspects of cellular dynamics, demonstrating successes of the theory, illustrating how a theoretical basis is required to fully exploit empirical studies and highlighting future work in the field.
  • 森下喜弘(九州大学)

    題目:「発生生物学への数理的アプローチ」
    要旨: 我々ヒトを含む動物の発生過程では,各器官は上皮や間充織といった組織が細胞の成長や増殖を通じて膨らんだり,プログラム細胞死(アポトーシス)によって細部が削り取られたりすることでその複雑な形態を実現する.また同時に,組織の各部分が異なる分化運命(例えば骨や筋肉)をたどることで空間非一様な解剖学的構造が形成される.目標の外形や骨格パタンを実現するための最初のステップは,各細胞が自身の位置を正確に認識し,適切に応答(分裂,細胞死,分化など)をすることである.位置に関する情報はモルフォゲンと呼ばれる拡散性分子の濃度勾配によって与えられるが,その濃度分布は生体内のゆらぎのために個体ごとにばらつきが生じる.講演の前半では,ゆらいだ環境の中で細胞により正確な位置情報を伝えるためのメカニズムを,数理モデルや具体的なデータを用いて説明します.また,後半では,細胞分裂などを通じて組織が成長していく様子を記述するための数理モデルやシミュレーション方法について紹介します.
  • 柴田達夫(理化学研究所)

    題目:「細胞の情報処理」
    要旨:細胞は数ミクロンから数十ミクロンの極めて微小なシステムであるが,外界の情報を検出して処理し,適切に応答することができる.近年の生物学の発展で,そうしたシステムを構成する要素がくわしくわかってきた.分子スケールから細胞の行動までを,実験と理論によって,数理科学の視点から一貫して理解する試みをバクテリアの走化性を例に紹介する.走化性は,細胞が環境の濃度勾配を感知し,それに沿って方向性のある運動を示す性質である.微分方程式や確率過程の知識を用いて,情報処理をになう分子システムがどのように働いて,濃度の変化を検出するのかを明らかにする.

問い合わせ先

現象数理学:冬の学校事務局 seirin[@]ms.u-tokyo.ac.jp 

([@]は @ に置き換えて下さい)

現象数理学:冬の学校 組織委員

三村昌泰(明治大学),俣野博(東京大学), 上山大信(明治大学), 奈良光紀(東京大学),李聖林(東京大学)

リンク

明治大学グローバルCOEプログラム「現象数理学の形成と発展」

明治大学先端数理科学インスティテュート

現象数理学:冬の学校は,科学研究費補助金基盤研究(S)「非線形非平衡反応拡散系理論の確立」(代表者:三村昌泰),明治大学グローバルCOEプログラム「現象数理学の形成と発展」, 明治大学先端数理科学インスティテュート・現象数理部門による援助を受けております.


 

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