ニュースレター【内容詳細】

反応拡散系 ニュースレター・第1号(2008年1月)

Workshop on Experimental and Theoretical Studies of Precipitation Patterns
「沈殿パターンの実験的・理論的研究」

日程・場所

2007年6月27日(水)~29日(金)
明治大学秋葉原サテライトキャンパス(JR秋葉原駅前・秋葉原ダイビル6F)

プログラム

6/27(Wed)
14:00 - 14:50 Atsushi Toramaru (Kyushu University),
“Experimental study of pattern transition in a Liesegang Ring”
15:00 - 15:50 Istvan Lagzi (Eotvos University),
“Self-organization and dynamic pattern formation in precipitation systems”
16:20 - 17:10 Masaaki Obata (Kyoto University),
“Kelyphite and symplectite: pattern formation in mineral breakdown reactions of garnet - from the aspect of thermodynamic and morphological instability”
6/28(Thu)
10:30 - 11:20 Kazushige Nagashima (Meiji University),
“Periodical layer structure of THF hydrates in porous media during directional growth”
11:30 - 12:20 Yoshihiro Yamazaki (Waseda University),
“Spatiotemporal patterns formed on adhesive tape in peeling”
14:00 - 14:50 Masayasu Mimura (Meiji University),
“Transient asymptotics in master- slave type reaction-diffusion systems”
15:00 - 15:50 Rein van der Hout (University of Leiden),
“Existence and properties of discrete precipitation zones in a model for Liesegang bands”
6/29(Fri)
10:30 - 11:20 Tsuyoshi Mizuguchi (Osaka Prefecture University),
“Columnar joint on a table”
11:30 - 12:20 Daishin Ueyama (Meiji University),
“Numerical study of pattern transition in Liesegang type precipitation systems”

ワークショップの感想 (広島大学・大西 勇氏)

ワークショップ:「沈殿パターンの実験的・理論的研究」に参加して
大西 勇 広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻准教授

今回、明治大学秋葉原サテライトキャンパスで行われた、表題のワークショップに参加させて頂いた。まずは、主催者の三村氏、上山氏に感謝の意を表したい。また、興味深い御講演を頂いた各御講演者の方々にも、ここに改めて謝意を表したいと思う。
さて、まず今回のワークショップについて私なりの大枠についての感想を述べる。拡散波のフロントで起こる化学反応、及び、その生成物と沈殿という比較的単純と思われる機構から生み出される多彩なパターン形成に付いて、主に化学的な実験を行い、そのメカニズムや結果の分類を行われる実験家の方々に最近の先端の実験結果の紹介を行って頂くとともに、数理的な理論的考察を行う方を交えて、そのさらなる交流と議論の場を提供するという目的で行われたように感じられた。私自身もかつて、講演者の一人である、Rein van der Hout 氏(Vrije 大学)達とともに、この分野で仕事をしてみたことがあり、今回、彼はその内容を講演された。また、実験研究もパターン形成に向けた興味に絞られており、興味深く聴講させて頂いた。

次に、今回の各講演について、講演順に簡単な要旨と感想を述べよう。この要旨と感想を書くにあたって、上山大信氏(明治大学)に非常に多大なご協力を頂いた。しかしながら、以下の内容について、勘違いや間違いがあれば、それは私の責任である。

寅丸氏
リーゼガング系に見られるパターンについて、特にゲルの堅さをかえたときにパターンの質的な変化が見られる件に関する研究。バンドパターンに代表されるレギュラーなパターンについて特に興味が持たれてきたが、イレギュラーなパターンとその遷移についての研究であって、視点が特徴的であると思う。

Lagzi 氏
沈殿系について、その沈殿がさらに他の物質に変化する系におけるパターン形成に関する研究。沈殿領域が定常パターンとして残るのではなく、それが時間と共に移動するパターン等が紹介された。様々な実験系を実現し、そこに見られる新たなパターン形成と、その工学的な応用について注目しているようである。

小畑氏
ある種の岩石に見られる特徴的パターンについて、そのパターンの性質から、その形成過程に関して一定の情報が得られる事など紹介された。岩石に見られるパターンは、観察は容易だがその形成過程を追うことはその形成過程が高圧高温の元で時間をかけておこることからなかなか実験的考察が難しい。モデルからのアプローチなどがなされているようだ。

長島氏
メタンハイドレートの層状堆積について、実験室で実験可能な実験を提案し、それによる層状堆積の再現および、そのメカニズムに関する考察を紹介された。こちらも、実際の系は高圧環境下における現象で、その実験的再現は難しいが、それを模倣したモデル系を作成したところがユニークである。数理的なアプローチも期待できる。

山崎氏
粘着テープを剥いだ際にテープに見られるパターンについて、剥がす速度や他のパラメータとの依存性に関する研究。全く単純な実験系だが、そのパターンの多様性には驚かされる。パターンは、テープの剥がれ面で形成されており、簡単な離散モデルで、パターンの再現に成功している。

三村氏
大腸菌が生成するコロニーパターンの研究。生成された大域パターンにおいて、しばしば見られるパターンの「ゆがみ」部分が、局所的に生成されたパターン同士の「妥協点」からなる、ある種のグレーンバウンダリーと考えることができることを指摘した。

Van der Hout 氏
一次元のリーゼガング現象(リーゼガングバンド)の生成とその時間則に関する数学理論的研究。半無限区間において、沈殿が離散的に無限回、起こることとそれが指数的な時間則をみたすことを数学的に厳密に証明した。

水口氏
柱状節理の形成について、コーンスターチなどを用いた簡単な実験と、それに基づく比較的簡単なモデルの提出および、そのシミュレーションの報告。

上山氏
リーゼガング型沈殿現象に関して、現象論的にモデル方程式を導出し、そのシミュレーションから、実験に見られるパターンの遷移に接近する研究。

最後に、このような現象の数学理論の構築に携わってきた者の観点から、この問題の興味深い点の一部を述べる。このような現象は、マスター=スレーブ型の反応拡散方程式系で記述される。Keller-Rubinow 方程式もその一種である。この方程式においては、沈殿する前の生成物が拡散波のフロント部分における化学反応により生成される過程がマスター部分で、この部分は、一度沈殿をしてしまったものからは、基本的には、影響を受けないと考えられている。そういう意味でマスターなのである。スレーブ部分は、その生成物が拡散しつつ、ある条件の下で沈殿になるという反応を表す部分である。マスター部分については、ここ数年、精力的に研究されてきており、拡散波のフロント部分の厚みを0にするような特異摂動問題として捉えることで、その特徴を数学的に明らかにすることができる。今回、その特異極限の方程式をスレーブ部分とカップルさせることで、このような反応拡散方程式系の数理的な研究に一つの境地を開くことができたのである。この縮約を行った方程式系を reduced Keller-Rubinow 方程式と呼んでいる。実際、Rein van der Hout 氏の講演で話された結果は、元の4変数からなる Keller-Rubinow 方程式を考えるだけでは数学的には何も出てこないところを、特異摂動極限を用いたreduced Keller-Rubinow 方程式を解析することで得られている。つまり、マスター部分がスレーブ部分から影響を受けないことをうまく利用して、マスター部分の特異極限として得られる自由境界問題とスレーブ部分をカップルさせるというアイデアが本質的に効いている。スレーブ部分へのマスター部分からの寄与は、この操作のおかげでディラックのδ測度として捉えられる。その結果として、力学系を沈殿生成部分に絞りこむことができ、パターン形成を解析するという意味でより本質的な部分に縮約することが可能となったのである。縮約された方程式系はδ測度的な特異性をもつものの、その部分をテクニカルにうまく処理すれば、放物型方程式における比較定理を効果的に用いることで規則的な等比数列則に従う沈殿パターンの生成を数学的に厳密に証明することができる。いわば、拡散波のフロントを一点と近似したことで、沈殿の生成メカニズムがシャープになり、それを厳密な数学として捉えることができるようになったといえよう。この結果は、空間多次元化などへ向かう今後の研究の土台ともなると思われる。
以上、拙い文章で申し訳ないのであるが、今回のワークショップについての感想を終えることにする。

非線形数理 秋の学校「パターン形成の数理とその周辺」
―反応拡散方程式理論による時・空間パターンの解析を中心に―

日程・場所

2007年9月25日(火)~27日(木)
明治大学秋葉原サテライトキャンパス(JR秋葉原駅前・秋葉原ダイビル6F)

プログラム

9/25(火)
13:30 - 14:30 池田 勉 (龍谷大学),
“モデル方程式を通してみるパターン解析”
14:40 - 17:40 小川 知之 (大阪大学),
“時空間パターンの分岐解析”
9/26(水)
10:00 - 11:00 新居 俊作 (九州大学),
“3重接合点を持つ定常解の分岐”
11:10 - 12:10 近藤 滋 (名古屋大学),
“生物におけるTuringパターン ―魚の体表に発生するTuring波(反応拡散波)―”
13:40 - 16:40 池田 榮雄 (富山大学),
“特異摂動理論とその応用”
9/27(木)
10:30 - 11:30 柳田 英二 (東北大学),
“歪勾配系における安定性解析I”
13:30 - 15:00 柳田 英二 (東北大学),
“歪勾配系における安定性解析II”
15:10 - 16:10 西浦 廉政 (北海道大学),
“「周期構造をめぐって」―泡筏・ポリマー・Turingパターン―”
<スクールの様子>

秋の学校・参加者全体写真

<スクールの感想 (独立行政法人 理化学研究所・鈴木 誉保氏)>

独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
形態進化研究グループ
鈴木誉保

反応拡散系についての入門から最先端の話題までを勉強できると聞き、今回の秋の学校に参加させていただきました。

講義では、分岐理論や特異摂動理論、歪勾配系などを中心に方程式系がもつ構造を探る手法を入門編として学びました。また、最先端のトピックスに触れるためのミニ講義も用意してくださり、こうした手法や考え方が生き生きとした現象とどのように結びついていくのかについて学ぶこともできました。私は蛾を飼育してその翅の模様を調べるという生物の研究に従事しておりますので、今回のように徹底して基本的なことを勉強する機会が得られたことで頭の中を整理することができ、より忠実な理解を得ることができました。また、テキストも詳しく充実したものになっており、今後の自習にも重宝しそうです。

今回の学校では、さまざまなバックグラウンドの方が参加なさっていたこともあって講義だけではなく懇親会も大変盛り上がり、とても充実した時間を過ごせました。数学、数理物理、物理学あるいは生物学などさまざまな立場からの考え方に触れ、どうすればそれらの境界領域に切り込んでいけるのか、あるいは逆にそれぞれの専門領域ではどのような取り組みが求められているのかなど、他の参加者の方々ともお話をする機会が得られ、大変有意義な時間を過ごすことができました。

昨今では、私が属しております生物学のみならず、多くの研究分野でこれまでの専門領域を飛び出して、インターセクショナルな取り組みが求められつつあるように思います。生物研究においても、計測技術の進歩に伴い、精度の高い空間情報や時系列のデータが得られるようになり、こうして得られたデータの解釈に数学的な解析が用いられるようになってきております。こうした流れに付随して、旧来から数学や数理物理の分野で議論がなされてきた生物をモデルとした事柄も、例えばチューリングパターンや最近では生物系の研究室でも紹介され、数学的な考え方が注目されつつあります。生物にみられる振舞いの数々も本質的には非線形な現象であることは疑いようもなく、その意味で、本講習会がテーマにしている非線形数学の研究は今後ますます必要になるであろうと考えております。本講習会のような機会を、数学サイドで用意していただけるのは私のような立場の者にとっても大変有効であり、今後の研究の新たな流れを生み出すことを期待しております

最後になりましたが、このようなすばらしい講義を受ける機会を与えてくださった三村昌泰先生、栄伸一郎先生、辻川亨先生、新居俊作先生、上山大信先生の組織委員の方々をはじめスタッフの皆様、講師の先生方に厚くお礼申し上げます。

<スクールの感想 (九州大学大学院数理学府数理学専攻M1・石本 登志男氏)>

9月25日から9月27日までの3日間、私は非線形数理・秋の学校に参加させていただきました。以下、参加感想記を書かせていただきます。まず、その会場は東京・秋葉原にある明治大学サテライトキャンパスでしたが、初日は会場がうまく見つけられず、不慣れな私は異質な雰囲気が漂う秋葉原の駅周辺を一人ぐるぐるとさまよっていました。先生に場所を教えていただき、ようやく会場に辿り着けたのでホッと一安心でした。会場に着いてからまず初めにしたことは、会場の設営のお手伝いでしたが、そこでは他の研究集会等で知り合った院生の先輩方と再会する事もできました。

ここで本題に戻りますが、今回の秋の学校に参加させていただく前には、「先生方の講演を聴かせていただいて、私に理解できるのだろうか?」等と不安でいっぱいでした。しかし、そのような不安はすぐに吹き飛びました。講演の中で先生方は、少ない知識しか持たない私のような学生に対しても分かりやすいように細かい工夫をされていて、これまでの研究の流れやその背景、今後のテーマなどについて詳しくレビューされていたので、大変勉強になり、かつとても楽しい研究集会でした。

講演の中でも特に印象深かったのは、小川先生の分岐解析のお話と、近藤先生の生物におけるチューリングパターンについてのお話でした。その中でも、小川先生は力学系理論の立場から、近藤先生はシマウマ等の表皮の模様を例にとって、「チューリング不安定性」について詳しく説明されていて、それぞれその数学的、生物的な意味を理解しやすい発表だと感じました。また、池田榮雄先生の特異摂動理論の反応拡散系への応用についてのお話の中では、私自身が今勉強している最中の理論が述べられていたので、とても参考となりました。

個人的には、昨年の12月の非線形数理・冬の学校(於:東京工業大学)が初めての参加でしたが、その時はまったく何も分かっておらず、ぽかんとしていました。しかし、今回は二度目であるので、周りを見る余裕もでき、いろいろな事が吸収できたと思っています。最後に、今回の秋の学校への参加にあたって、科学研究費補助金基盤研究S「非線形非平衡反応拡散系理論の確立」から多くの援助を承り、三村先生はじめ関係者の方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

資料

PDFファイル レクチャー・ノート

PDFファイル 池田榮雄氏・スライド資料

PDFファイル 池田勉氏・スライド資料

nnrds事務局・連絡先

明治大学先端数理科学インスティテュート三村昌泰・上山大信・若狭徹
nnrds[at]math.meiji.ac.jp


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